ファッション業界で30年以上も前からエコ分野で取り組みを行ってきたデザイナー・浜井弘治氏
SDGsが提唱されるかなり以前。ファッション業界で30年以上も前からエコロジー分野での取り組みを行っている。工場で残った糸(残糸)を回収し再利用した製品や、自然素材である和紙をつかったアパレル製品をこれまでに数多く製作してきた。
(株)三宅デザイン事務所から独立して地元の山口県を中心に活動している現在は、プリーツ商品からデニム製品の他、ユニフォーム受託制作など幅広く活躍中。
最近では”縫わないで、折り紙のように生地を折りたたみ、かしめを打って、仕上げる”「Origami Sewing-おりがみソーイング-」などの書籍の出版もしている。
自身のブランド「TIGER BOMBOO DD」にてデニムドクターコートを販売。メディカルウェアも積極的に製作。プロフェッサーズラウンドとのコラボ商品もこれまで多数あり、好評を得ている。
「CONCEPT HAKUI」企画では、浜井氏のライフワークでもある自然素材生地を使用したメディカルウェアを提案。発表作品についてはプロフェッサーズラウンドとのコラボとして発売も今回は予定している。
本ページではプロフェッサーズラウンドスタッフにてインタビューさせていただいた様子を抜粋動画を含めて紹介。
浜井弘治氏・インタビュー(抜粋)
「残糸の再利用や自然素材である和紙素材生地を利用した製品などつくっていますが、きっかけなどあったのですか?」
「あんまりエコとか言われていない時でしたが、あるとき『宇宙船とカヌー』という本に出合ったんですね。その後映像もみて・・・・(中略)・・・・自然とか地球環境についてにハマったんです。すると自分が作ってる服に関して素材に興味があったのが、どのように捨てられその後どうなってしまうのだろう?というようなことにまで興味をもつようになりまして、探したんですよ。探しているうちにですね日本の知恵に辿りついたんですよ。」
「服の最後はどうなるかを探したのですね。。」
「まずは最初にたどりついたのが残糸だったんです。工場で残った糸を回収して服を作るんです。それが面白かったのは・・・既に染めてあるものを使うと意外なものができるんです。(不揃いな残糸をかき集めて服をつくることで同じ色の製品には仕上がらないという反面)大量生産でありながら一点ものが出来上がったりして。世の中が抱えた矛盾や面白さも感じたんですよね。残糸ってこれまでお金を払って捨られていたものが、僕が残糸を使ってものを作ろうとしたときにはお金を払って買うことになるんです。捨てていたのだからただでくれても良いと思うのですが、それって資本主義のすごいとこですよね。」
「時代や環境でかわる価値観は面白いですね」
「日本の知恵では次に藍染にハマって。(ファッション業界でデザインをしていた当時は)クラフト的な世界ってむしろ嫌いだったのですけど(笑)・・。97%の不純物・3%の色素で染めるのですが、普通モノを染めようと考えたら逆ですよね、それがたった3%の色素でモノが染まってしまうというのは『発酵』という技術(日本の知恵)があるからでなんです。生地は藍の窯につけてそこで染まるんじゃなく引き上げて空気に触れて染まるっていう事とか、藍染の97%の不純物にも意味があり、それは蛇除け虫よけという事とか。合成染料は逆で97%の色素、3%の不純物で染めるんですけど、その生きている(≒藍染などの自然染め)ものと死んでいるもの(≒合成染料)の違いや、差って何だろう・・・・(など考えたり調べたりしてハマっていました)」
「インディゴ=藍色くらいしか認識ありませんでした、不思議な世界ですね」
「次に和紙に出合いましたね。どうして日本人は和紙の中、紙の世界に住んでいたのだろう。『和紙は呼吸する素材』ということが調べたときに書いてあって、そこには和紙は呼吸する素材で夏場に水分を吸って冬場に吐き出すという事などあり(様々な機能が備わっていて)日本人は必要としてその中に住んでいたとありまして・・。」
「はい」
「最初の残糸は『もったいない』、次の藍染は『日本の技術・発酵』、和紙は『日本のトラディショナル(+高機能性ある素材)』、未来に繋がるともので取り組むべきものだと出会って感じたんですよね。和紙は正にそうで、ポリエステルとは異なり、水分を吸い込んで吐き出す素材で(機能的にも非常に優れていて)環境問題を考えても取り組むべきだと感じましたし、発酵もそうで、まだまだ可能性があると思っていて・・・・・・(中略)・・・・江戸時代にはこれらのものが既に確立されていたわけですよね、摩訶不思議でしらべれば調べるほど科学的であり理にかなっていてハマったんですよね。・・・・僕にとってのSDGsってエコっていう部分の中において、日本の知恵(地球環境を考えたときに解決できるヒントがたくさんあると思っていて)を利用する世の中になってなっていくんじゃなないかなって思います。・・・」
「自然素材である和紙は家屋にも使われていて長所がたくさんある(耐久性・調湿性・消臭性etc)一方で、ポリエステルと比べると短所(伸縮性・価格etc)もありますよね。」
「過去のものを取り出して懐かしがって懐古主義になるのではなくて、それを未来にすれば良いわけですよね。今、和紙素材っといっているモノは和紙のジャージまでできるようになっているんですけど、ポリエステルを軸に和紙をカバーリングするとかですね、ここ7,8年、撚糸屋さん(糸を撚る工場)とやりとりして作ってます。また、和紙、綿、ポリエステル、スパンテックス、ストレッチのニットですよね、それが上手くお互いの欠点・長所を補いつつできた素材っていう感じです。・・・・・(中略)・・・・・ポリエステルって万能素材ですごいと思うのはインナーからアウターまで全てできてしまう、でも欠点というのが結局肌触りがよくなっていいうところですよね。それって最大の欠点ですよね(笑)。」
「(笑)」
「(万能素材でありながら肌触りがよくないって)それって人間が真ん中にない、洗濯の都合だけかみたいな。でもねTCって(T=テトロン(ポリエステル系)、C=コットン(綿))ポリエステルと綿でお互いの短所・長所を上手く補った素材ですよね。」
「CONCEPT HAKUI企画では、和紙素材の他、竹素材の釦もご提案いただきましたね」
「今は山口県下関市で服を作っているんですけど、山口県に戻ってから県の仕事で関わった時に県の人から、山口県は竹が多すぎて困っているから竹を原材料にして何かできなかという事をぽそっと言われたんですね。そこで竹に興味を持って調べてみると竹って野放しにしておくと、檜とか杉の木とか森を死滅させてしまうくらい繁殖力があるんです。(そのような竹害がある一方で)ところが竹って色々話を聞いた中で、宮大工が使う竹杭って炭化して強固にして分厚い板を貫通するっていうんですね。たまたまなんですけど山口県内で竹を合板にして家具を作っている会社があったんですよ。そこの根幹技術が竹の炭化だったんですよね。試しにそこで作った原材料を分けてもらって釦を作ってテストしてみたらびっくりするくらいの測定値がでてきたんです。ポリエステルとかプラスチック釦の倍の数値が出たんです。炭化のすごいところでこれもまた日本の知恵です。」
「(なるほど)」
「多少こじつけがあるかもしれませんが、出会いとか、頭の中でそう思い込んでいるだけかもしれませんが(笑)」
「(笑)」
「今世の中が負の財産がたくさんあると言われていて、ゴミも含めてですね、それを資源に変えなければいけない時代になって・・・・、ゴミとは言わないまでも色んな建築物を作りすぎているとか・・・それをなんとかですね、未来につなげる知恵に変えなければいけないことってあると思うのですよね。偶然にもそのようなモノにたくさん出会えたんですよね。」
「今回は和紙×綿(和紙デニム)のスクラブ、和紙×ジャージのドクタージャケットを作成することになりましたが、化学繊維100%素材に劣ることはありますか?」
「(和紙素材でいえば)吸水性が高いということは、水分を保有する力があるということで着心地でいうとエアコンの下でも快適になる素材であると思うんですよね。まさに病院勤務に最適だと思います。スクラブにしてもドクターコートにしても快適にだと思います。和紙ジャージになると伸び縮みもしますし水分も吸い取ってくれますし(調湿)、軽いので、これらの機能はより医療のユニフォームとして最適なのではないかと仮説をもとに作っています」。
30年以上も前から、日本の知恵を取り入れたファッションデザインを行ってきた浜井氏。動画では一部抜粋となりますが、非常に深い知識をお持ちで、時間があっという間に過ぎました。ありがとうございました!
和紙素材を使ったメディカルウェアはプロフェッサーズラウンドとコラボで販売予定が決まりました。完成まで乞うご期待ください。
参加デザイナー・浜井弘治氏 プロフィール
山口県下関市出身
第61回装苑賞受賞
(株)三宅デザイン事務所に服飾デザイナーとして入社
インターナショナル・テキスタイルデザインコンテスト「ファッション振興財団賞」受賞
株式会社うるとらはまいデザイン事務所